秋色、駅前、交差点
                 〜789女子高生シリーズ

          *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
           789女子高生設定をお借りしました。
 



衣替えが済んでのち、
しばらくほどは生地の厚くなった長袖が恨めしい例年なのだが。
今年はそれほど…困るほど“暑いなぁ”という感慨はないままであり。

 「そうですか?
  いい陽気の中を駆けてると、
  髪の中やら背中やら、じわって汗が滲んで来ますよ?」

 「今朝はお寝坊さんだったようですものね、ヘイさんてば。」

くすすと微笑った白百合さんのお言葉、
揶揄された部分へだろう、むむうと膨れて受け止めた、
こちらはひなげしさんと呼ばれている 赤毛のお友達。
とはいえ、悪びれたり拗ねたりするところまでいかず、
自分から吹き出すと、
そのまま わざとらしくも子供っぽく、
“べぇえ〜だ”と舌先を突き出したあたりが、いっそ彼女らしいご愛嬌。
どちらかといや童顔で、
お元気溌剌な彼女らしい素振りはただただ愛らしく。
それを“あらまあ”と、
こちらさんもまた やや剽げて受け止めたお連れはといや、
絹のようなつややかな光沢で濡らした金の髪、
カチューシャみたいになるよう途中までを三つ編みで編み込んで。
残りはさらりと垂らした優しいスタイリングがいや映える、
いかにも涼やかな風貌をした美少女であり。
駅前広場のシンボルツリーの木陰の下にてじゃれ合う、
愛らしい女子高生二人がまとう制服がまた、
ここいらでは知らぬ者のないほど著名な、
女学園のセーラー服とあって。
通りすがりの老若男女がすべからく、
お…っと視線を留めたが最後、
そのまま しばし意識を奪われてしまっているほどで。

 「あれって、向こうの女学園の。」
 「ええ。」
 「どこかのお国の外交官のお嬢様かしらね。」
 「そうかも知れないし、
  それでなきゃ、海外資本の大会社のご令嬢とか。」

お嬢様学校として有名な女学園なだけに、
金髪や茶髪頭の少女と来れば、
髪の染め過ぎかとはならず、きっと外国のお血筋なのだろと、
勝手にそういう解釈をされるのへももう慣れた。
ずんと近くまで寄ってみりゃあ、
面差しも話し言葉も純然たる日本人のそれだと判るのだが、
そこまでをいちいち説明してやる義理はなし。
集まる視線もどこ吹く風と、う〜んと背伸びをしたのが平八で。

 「短縮授業は嬉しいですが、
  いよいよだなぁってカウントダウンでもありますからね。
  あんまり気の晴れるもんじゃあありませんて。」

 「やだ。まだ言ってるの? ヘイさんてば。」

10月、神無月は女学園にとって祭典づくしの月でもあって。
まずは、月半ばの体育の日に体育祭があり、
月末、正確には11月の初めの文化の日前までに、
こちらは数日がかりでの文化祭が華々しく催される。
女子校のそれだからといって、
品のいいばかりで大人しい代物かといや、さにあらず。
体育祭では徒競走やリレーの他に、
ハードルや跳び箱など様々な物を並べたところを駆け抜ける障害物競走や、
綱引きや玉入れも、二人三脚もある。
その昔、大火が出たおりに少女らで消防団を組んで活躍した名残り、
バケツリレー(ただし空の)もあれば、
戦時中に槍や薙刀を振るったという極秘教練の名残りなんでしょうか、
新体操のリボン風、短い手持ち棒へ長いリボンをつけたの振って、
マスゲームなんだか、フラッグ何とかだか、
呼吸を見事に合わせて、勇壮に舞う演技もありで。

 “何か後半のあれやこれやは、結構物騒ですよねぇ。”

そうですね、歴史あるガッコだとはいえ、
随分と気骨のある“大和なでしこ”を、
養成していた時期もあったらしいです。
(苦笑)

  それはともかく

そういう催しが押し迫ってくると、
生徒たちも心浮き立ち、なかなか落ち着けないし。
支援くださっている方々や、
歴代の生徒会長を務めたような名代のOGなどなどという、
いづれも頼もしい反面、うるさ方でもある来賓たちを、
準備万端整えてお迎えせねばならぬという義務もあってのこと。
学園側としては、

  準備に専念しやすいように、と

体育祭までと、文化祭直前の1週間ずつ、
授業を午前までの短縮として下さっており。
実行委員会や生徒会はもとより、
生徒たちも一丸となって、頑張って…いるはずなのだが。

 “………え?
  あ、そんな盛り上がりの最中に、
  何でアタシらが女学園じゃあなく駅前なんぞに居るのか、ですか?”

確かに まま、
学級ごとに選出されている実行委員や、
学年毎に編成されている応援担当の皆様やに比すれば、
競技練習に出る訳でもなければ、設営関係のお手伝いをするでなし。
進捗進行の連絡員なぞも請け負ってはおらずで、
あくまでも“その他一同”の域からは出ぬままに、
あんまり熱心に精励…してはない、彼女ららしいのだけれども。
だからと言って、サボっているワケでもなくて。
職員の方から預かった とある綴りの束を、
彼女らの知己でもある片山五郎兵衛氏のところまで、
直々に持ってゆくというお務めの途中だったりする。

 「去年もこんなに集まったの?」
 「ええ。八百萬屋というお店はほんの数年前に開いた代物ですが、
  ゴロさんたら あちこちで料理の腕を振るっちゃあ、
  記憶に残るようなお菓子だの炊き出しだのをして来たらしくて。」

そう、こちらは文化祭のお話となるが、
模擬店とは別に、
来賓を持て成すためにと用意されるお茶菓子へ、
一昨年の春先という、いささか気の早い頃合いに、
とある理事婦人が こそり内密に、
とあるご所望を打診して来られたのが、コトの始まり。

  今年の秋の学園祭では、是非とも『八百萬屋』の
  いえ、片山五郎兵衛様のお手になる、
  栗入りの三笠を食しとうございます、と

何しろ、学園そばに彼が開業していたことまでも、
調査済みだったからこそのリクエストには違いなく。
若かりし頃に何処やらでか出逢う機会でもあっての、
懐かしい思い出の味なのか、
はたまた…もしかして初恋の甘味なのかもと。
学園側は元より、
そのころには既に来日していた平八も、
“それってどういうことですよ”と盛大に膨れたものの、
真相はとうとう語られぬまま。
それでも供された 蜂蜜入りの上品な甘さの粒あん三笠は、
その年の学園祭で披露されたどんな演目より…というと大仰ながら、
それでも結構な評判を博したその上、
“え? これって……”との心当たりを、
思いの外 あちこちで掘り起こしてしまっていたようで。

 『ゴロさんて、
  実はマダムキラーとして世界中を渡り歩いていたとか。』
 『……、…? (…頷?)』
 『冗談でもやめてください、シチさんに久蔵殿。』

どこのグルメまんがのパロディに突入さす気ですか、もーりんさんも…と。
こっちにまで随分と迫力のある一瞥飛ばして来たひなげしさんだったので、
まま そこいらの回想はそこまででおくとして。
(苦笑)
そういう経緯あってのお茶菓子だったという詳細が、
他の来賓の皆様のお手元までへと届くのにはさほどの日数も要らなんだらしく。
さあそれから、卒業式だの入学式だの、
ミッション学校なのでというクリスマス・ミサへまで、
懐かしいあれが食べたい、これは覚えておいでかしらという、
リクエストが学園へ寄せられるようにもなっており。

 『…直接、店まで来ればよいのにのう。』
 『お忙しいとか、事情があってとかで、そうは いかないんでしょうよっ。』

  『何を息巻いておるのだ、ヘイさん?』
  『〜〜〜〜〜っ。///////』

ある意味ゴロさんに失礼ながら、
それでも…今時の女子高生たちからすれば、
微妙に射程外だろうというタイプだと決めつけて、

 『好敵手は居ないも同然と油断しまくっておりましたが。』

お店からあまり出歩かぬ彼なので、尚のこと、
お客層の大半を占めるうら若き女子たちからは、
ライバルが現れることはなかろと、高をくくっていたらしい平八には、

 『昔の女というのは盲点でした。』
 『こらこら、ヘイさん。そんなことで握り拳つくらない。』
 『〜〜〜?(傾首?)』
 『ほら、久蔵殿も困惑してますし。』
 『だってっ。』

17、8の小娘ならば、
ゴロさんの奥深いあれこれへも到底 気づけないに違いないから、
寄り道先の気さくなマスター扱い止まりであろうと油断しておれば、

 『熟女はいけません、熟女は。
  元はどんなご令嬢であれ、
  年季が醸した人性は、酸も甘いも知ってのこなれてて、
  ゴロさんがいかにいい男かもあっさり見抜いてしまいます。』

日頃のほがらかで余裕たっぷりな態度がそこまで変わるかと、
呆気にとられた七郎次だったのは、
そういう恐れを平八が吐露したのを聞いたの、
そういや初めてだったからでもあって。

 『…もしかして。』

これは七郎次だったから可能だったこと。
自分より微妙にちょみっとほど、平八とのお付き合いの長い久蔵へ、
こっそりととあることを“訊いて”みたところ、

 『………。(…頷)』

そもそも平八は、
短くとも構わぬから日本での教育をという祖父と本人の希望から来日し、
当初は単身でマンションを借りての一人住まいをしつつ、
女学園へ通う予定になっていたのだそうな。
学校を選んだのは平八自身だったそうで、
名家のお嬢様が通うという長閑そうな学校にしては平均学力も高く、
世界レベルでも名代という級の工学部のある大学が周辺にぞろぞろあるので、
好奇心の枯渇という心配も無さそうだったし。

  それより何より

アメリカの実家で出会ってからこっち、
ずっと憎からず想っていた五郎兵衛も近所に住まうというのが、
のちのちにこそりと久蔵へ白状した一番の理由であったらしく。
だからこそ、

 『だって。
  ゴロさんに限ってとは思ってましたが、
  そんな年嵩の女の影が差すなんて知ったときには、何てのかもう…。』

何とかしなくちゃと思いつめたその挙句、
一人暮らしはやっぱり心細いとか何とかと、
両親やら祖父やら、
忘れちゃいけない五郎兵衛本人やらを懸命に掻き口説いてのこと。
同棲もどきの暮らしようとなるのも いっそ構わないと、
八百萬屋への下宿という暮らし向きへ漕ぎつけての、
日本での新生活開始と相成ったのだそうで。
そういう経緯を知っている仲良しな親友同士の身としては、

 “体育祭が間近いのが気が重いなんて、
  ずっとずっと言ってますけれど。”

実のところ、
五郎兵衛の特製のお茶菓子をリクエストした、
山ほどの熟女たちがお運びになるのかと思うと。
それが一番に、

  何とはなく気が重い

…というのが、
正解なんじゃなかろうかと思うワケで。

 「? どしました?」
 「いえいえ、何でもありません。」

憂鬱の原因まで誤魔化すなんて、あんまり健気なひなげしさんなものだからと、
ついつい励ますような眼差しを向けてしまっていた七郎次、だったが。
そんな心情が当人へばれたなら、
真っ赤になったそのまま混乱し、
2、3日ほど口を利いてくれなくなる恐れもあったので。

 「あ、久蔵が来ましたよ。」

七郎次の手が、
少し遅れてやって来た もう一人のお仲間への、
“ここよ”という合図に ひらひらと振られた。
身内も同然という平八がいることだしと、
今年のアンケートの綴り、
3人娘で“八百萬屋”まで持ってくことになったのだけれど。

 『…すまん、遅れる。』

いざ学園から出かかったところで、何か忘れ物に気づいたらしい紅バラさん。
先にのんびり向かっててと言われた二人だったが、
今度は七郎次が定期券の更新間近だったことに気がついて。
今なら窓口も空いているからと、
微妙な遠回りとなる駅へと向かいつつ、
久蔵へもその旨をメールで伝えたところが、
彼女もこっちへ向かうとのお返事が来たため。
じゃあ待ってよかという流れになっていたのだが、

 「……え? どこですって?」

駅前の広場は、
昼下がりという微妙な時間帯なのでさほど込み合ってもおらず。
七郎次同様の見事な金髪をした、すこぶるつきの美少女、
そんな久蔵がやって来れば、少なからず目立つはず。
七郎次が見やった方を、やはり眺めた平八だったが、
レンガ敷きの南欧風を気取ったJR駅前エントランスにも、
アールデコ調ガス灯風の街灯が居並ぶ通りのほうにも、

 「どこですか?」

人がいない訳ではないし、
自分たちと同じガッコの子なのだろ、
濃色セーラーという制服姿の女子高生も見受けられるものの、
そのどこかに久蔵が紛れているようには見えないのですが…と言いたげに、
小手をかざして訊く平八なのへ、

 「なにを……。」

言っているのだと言いかけた七郎次の口許が止まる。
お顔だけが目に留まったのは、
相手が車道に停まった車から丁度降り立ったところだったからで。
そこから出て来てのすくりと身を起こすと、
セーラー服なんかじゃあない、濃色のブレザー姿だというのに気づき。

 “あ……。”

あの子はという心当たりが、
胸の奥底でパチンと、理解を伴って軽やかに弾けた。
沖縄国体の宿舎ですれ違った男の子。
自分の親友の久蔵とそっくりな、
エアリーな金髪を冠のように頭上へいただいた、
いかにもノーブルな印象のする美人…の、でもでも男の子。

 “そか、そういえば…。”

その折、東京代表で来ていたとかいうお声を聞いたので、
成程、こうして出会うことだってあるだろうけれど。
久蔵を待っている身だったこともあり、
このお顔が見えたその時点で、
すっかり彼女自身だと思い込んでしまっていた辺り、
どれほど瓜二つなのかが思い知らされるというもので。

  ………とはいえ

 「シチさん?」

ねえと肩を叩かれて、はっと我に返った七郎次のすぐ傍らに立っていた平八には、
もしかして角度が違って見えないものか、
ああまでそっくりだってのに、見当たらないというお顔をするばかり。
まま、本人じゃあないということへ気づいてしまえば、
七郎次としても、見間違えた対象を、ほらあの人とも言いづらく。
向こうさんが気づいていないらしいことを幸い、

 「あれれぇ? 見間違えたかな。
  向こうのほら、角を曲がって来たように見えたんだけど。」

微妙に違う方向を指さして誤魔化しておれば、
そういうところも久蔵にそっくりな、島田とかいう男子の側も、
脇目も振らずにすたすたすたと、足早に駅舎へ歩んでいってしまったので、
ややこしい出合い頭にはならなんだものの。

 「…あれ? 今の人。」

通り過ぎてくれたよ、よかったぁと、ほっとしたのと重なって、
平八の声がしたもんだから、

 “え? え?//////////”

  何なに、気づかれた?

ドキドキが再燃し、思わずのこと伸びてしまった七郎次の背条を、
柔らかな感触のする手のひらでとんと叩いた平八が言うことにゃ。

 「今の人、栗の詰まったカゴを提げてましたよ。」
 「  …………え?」

高校生みたいでしたのに、遠足のあるガッコなのかしら、
それとも栗園での体験学習かなぁと。
さっきの君が去ってった、駅舎のほうを見て言う彼女へ、

 “え? え? え?//////////”

七郎次の思考が一瞬……あれれぇと混乱しかけたのは言うまでもなくて。

  今のって、ブレザー服を着てた?
  ええ、奇麗な金髪でしたからアメリカンスクールの子ですかしら。
  お顔、見た?
  見ましたよぉ。なかなかの美人でしたよねvv

男の子に“美人”はないですかねと苦笑った平八が、
「栗かぁ、そういう季節ですものね。」
しみじみ口にしたのを絶妙な間合いで拾ってのことだろう、

 「モンブラン。」

手短な合いの手を入れた声があり。
いちいち驚くのも妙なことよと、それでも唐突さへは苦言をちらり。

 「何の合言葉ですよ、久蔵殿。」
 「…突っ込むのはそこですか、ヘイさん。」
(笑)

  すまぬ、遅れた。
  第一声がモンブランてことは、栗カゴ持ってた人、見ましたか?
  ……。(頷)
  久々にまたケーキ焼きますか?
  ……vv(頷) ………?? シチ?
  え? おや、シチさん?どしました?

会話にも加わらぬまま、何とはなし、ぽやんと…
焦点の合ってないお顔になっていた白百合さんだと、
あとの二人が気がついて。
いつぞや、やはり立ったままにて人事不省になった久蔵だったのを、
彷彿とさせたのは言うまでもなくて。
何を見たやら、驚いたやら、ただただ立ち尽くす姿へ、
しっかりしてとの大慌て、
白百合さんの肩を揺すぶった、平八と久蔵だったのであった。


  さて、ここで問題です。(こらこら)





  〜どさくさ・どっとはらい〜  10.10.06.


  *栗園から帰って来たところの誰かさんと、
   妙なところで擦れ違ってる七郎次お嬢様でした。(おいおい)
   車で自宅まで乗り付けるのは、
   さすがにご近所の目もあるしと考慮して、JRに乗ったらしいです。
   早くシチに栗を渡すんだと思い詰めていたので、
   次男坊の側は、そっくりさんには気づかなんだ模様です。

  *それはともかく。
   同棲までしておきながらとか言ってる割に、
   あんまり具体的には触れてない、
   ゴロさんとヘイさんの進行状況を少々。
   自分には全く手は出さないわ、
   浮名を流しまくってたらしい疑惑も出てくるわ。
   大事に大事にされてる自覚もありはするんですが、
   それでもヘイさんとしては、
   どっしり構えて落ち着いて…ばかりもいられないらしいです。

  *ちなみに、お茶受けリクエストの方は、
   統計を取った結果は、
   こし餡の淡雪もなかか、
   サイダー風味の生クリームを挟んだブッセが一番人気だったそうですが。
   はてさて、ゴロさんは何を作ることとするのやら。
   そして、ヘイさんの悋気の虫は、
   今年も爆発しないで済むのでしょうか?
(苦笑)

ご感想は こちらへvv めーるふぉーむvv

ご感想はこちらvv(拍手レスもこちら)


戻る